今回の失格裁定については、斉藤友晴氏が書くように、
また公式のカバレージで補足説明が言及されたように
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/gpflo10/day1#16)、
明示的なミスやありがちな反則が原因ではありません。


 "残り時間が少ないのを確認した後、故意に時間稼ぎをしているように見えたから"とあり、
広く謂えば遅延の部類に数えられるものと考えて良いものと思います。
 それに対する反論として、斉藤友晴氏は"考えなければならない状態だった"という旨の意見を出しており、
また事実として斉藤友晴氏が文中で端的に再現する戦場は
『相手がコントロールするクリーチャーが10体』
『自分がコントロールするクリーチャー5体と転倒の磁石、伝染病の留め金』であり、
更に伝染病の留め金を特記する以上
おそらくは-1/-1カウンター(や、感染)が関与している状態だと推察が出来、
"考えなければならない状態だった"という意見に説得力を持たせています。

 悪意的な解釈で以って転倒カウンターのない磁石、
-1/-1カウンターのない戦場、チャンプにしかならないブロッカー、
全部通すと死ぬ。というような状況を勘案することも可能ですが、
その地点でエクストラターンにもはいっていないということは
劣勢と云うより風呂敷を畳むべき試合であり、
そこから時間を引き延ばすのは非紳士的行動である以前に、
極端に自分か対戦相手が
点数計算のままならないプレイヤーであることが前提となります。

 しかし実際に何度か対戦したことがあり、
また斉藤友晴氏の試合とその様子を観戦する機会に比較的恵まれてる人間が
客観的に述べる事実として、
斉藤友晴氏は公開情報(戦場)の点数計算が人より遅いという事実は全くなく、
プロと呼ばれるにしかるべき速さを当然持ち備えていますので、
この"前提条件を達しただけの最悪の戦場"というのは
酷く考えにくいことですし、
DQの裁定を受けた試合が上位の試合であったことを加味すると
対戦相手もまた、一定の水準で点数計算が出来て然るべきです。

(個人的に"そう"と感じたことは殆どありませんが)
斉藤友晴氏のプレイングが比較的遅いと謂われる原因は
非公開情報、つまり自分と相手のハンドとデックにも
その点数計算を及ばせている(のだろうと推測できる)点にあります。
 これは勿論、ルールを覚えたばかりの初心者も当然することですが、
斉藤友晴氏を含めたプロ、"プレイングが上手い人"たちというのは
その点数計算に更に多くの要素を含めて値を出している、という点にあります。
 
 更に情報を整理します。原則としてマジックに"持ち時間"の制度はありません。
総試合時間だけがあり、試合を開催するイベントの進行や
ジャッジの裁定によりそのトータルの時間が足し引きされることはあっても、
プレイヤー毎の時間というのはどちらにも存在しません。
 しかし、"時間切れ"を"その試合を引き分け"にする手段の一つとして
第一義的に優先して考えるべきではないとも言われます。
とても回りくどいですが、game-1に勝利したプレイヤーが
game-2で何もしない(極端な話、game-2のマリガン判断に長考して50分かける等)
ことで1勝1分になって勝利点を得ることを防ぐのが最大の目的です。
 よって、その長短を問わず時間浪費のためだけの時間浪費は
全く許されていません。
極端な話、自分のターンでエクストラターン0ターン目を起こしたい
(この試合を引き分けにしたい)が為に
end my turnを発言するのを10秒遅らせるのと、
マリガン判断に長考して50分かけて引き分けにしたいのでは、
全く同じ行動(行動の遅延)によって全く同じ結果(引き分け)がもたらされます。
 遅延そのものを反則とするならば、どちらの場合も本来全く同じ裁定が下ってしかるべきです。
(但し、"故意の遅延には失格裁定しかない"という
現状のルーリングに対して全く諸手で賛成しているわけでもありません。)

 今回、斉藤友晴氏がDQを受けた理由は、
"複数回、短時間的に、その時間稼ぎに相当する遅延"をしたと判断されたこととにあります。

 この判断には第三者の立場として、当然の疑問点が幾つか沸きます。
一つは、遅延を本当に"した"のかどうか。
一つは、時間稼ぎを"する意思"があったのかどうか。
似たような言葉ですが、意味合いの異なる二つの疑問です。

 遅延を本当にしたのかどうか。
これは単純に、そこからの試合をおおよそ最速と思える速度で
両者が展開した時の仮想試合と実際の試合とを比べて、
試合時間切れによる発生するエクストラターンに突入するかどうかに於いて、
"異なる"結果が出るかどうかです。
 前者では突入しない、後者では突入した。となれば、
それは遅延行動があったという客観的事実になります。
但し、その遅延行動を"斉藤友晴氏側のみが取ったのかどうか"は不明です。
対戦相手側のみが遅延行動を取った可能性、
斉藤友晴氏側のみが遅延行動を取った可能性、
両者が遅延行動を取った可能性の三つは同程度あります。
この三つの可能性の多少を絞るのは、
"する意思"の在不在を於いて推論できませんので、一旦保留します。

 では、時間稼ぎを"する意思"があったのかどうか。
この意思の在不在の判定の材料は、大きく二つです。

一つは、
>「残り時間が少ないのを確認した後、故意に時間稼ぎをしているように見えたから」
>「残り時間3分を確認した後にプレイが遅くなった」
http://harurumtg.blog41.fc2.com/blog-entry-155.htmlなど)

一つは、斉藤友晴氏が行う点数計算は多くのものを含めるという点です。

 前者に対する反論として斉藤友晴氏は
>しっかり考えていただけでした。
と、しています。残り時間を確認したことを否定する旨の意見はありません。

 若干逆説的になりますが、
残り時間から逆算して、"しっかり考える"ことによって
エクストラターンを迎える可能性、
引き分けになる可能性は加速度的に向上することを、
斉藤友晴氏の能力によって判断できなかったとは思いがたいです。
この可能性の向上の停滞は、斉藤友晴氏が自身でも書かれているように、
"いつも以上に早いプレイを心がける事"によって行い得ます。

 後者は、そもそもこの前提に客観的事実を求めるには
まず事実検証を行うべきですが、
プロとしての戦績の数多をそれに替えたいと思います。

 ではこの二つを合わせて考えると、
"理想的な速度での展開によって勝利できない場面であるから、
エクストラターンを自分のターンで開始して、
それを凌ぐことが最も点数の損失が少ない"ということを
全く考えもできなかった。というのは、考えにくいことです。
 何故ならその行為がルール上合法であれば、
当然取るべき選択肢の一つとなり、
ルール上非合法であれば、当然避けるべき選択肢の一つとなることから、
有能である以上、"合非どちらにせよ考えるべき手段"の一つとなるからです。

 "時間浪費のためだけの時間浪費"は明確に非合法(イリーガル)である、
というのは議論する以前の前提的な事実ですが、
では"展開によっては勝利できるかもしれない"ことを考えることによって、
同時に自分の優位性を獲得せざるをえない"時間の浪費"を厭わない―・・・
つまり斉藤友晴氏の謂う、"(普段通り)しっかり考えていた"
というのは全くの非合法なのでしょうか。
 斉藤友晴氏がこれを合法的行動だと考えているのは明らかで、
"ずっとフェアにやる"という宣言にもとるものではありません。

 しかしながら結果として今回のヘッドジャッジの下した判断は、
その行為は"避けるべき行動の一つ"ということであり、
"警告にも関わらず非合法行動を繰り返した"となりました。
しかし、これには一つ、疑問があります。

 先から繰り返すように、時間に猶予があるなかで"しっかり考える"ことによる時間浪費と、
"展開によっては勝利できるかもしれない"ことを考えることによって、
同時に自分の優位性を獲得せざるをえない"時間の浪費"を厭わないという考えによる時間浪費と、
"時間の浪費のためだけの時間浪費"ことのそれぞれの区別はされてしかるべきです。

 しかし英語で言うスロープレイとストリーングとその両方の区別を、
今回の件に反応する人たちのなかに混同している人がいることによって、
斉藤友晴氏が取った行動が"どれだけ非合法かの議論"を混乱させています。

 疑問とは、今回のジャッジもまた、その混同をしている節がなかったかどうかです。
onceとtwice―・・・"一度目の警告"と"二度目の警告"をした詳しいタイミングが分かりませんが、
二度目の警告が、"展開によっては勝利できるかもしれない"ことを考えることによって、
同時に自分の優位性を獲得せざるをえない"時間の浪費"を厭わないという考えによる時間浪費―・・・
に対するものであることから、
一度目の警告は、常識的な時間経過を逆算して、
時間に猶予があるなかで"しっかり考える"ことによる時間浪費に対する
警告の意味合いが当然強いことと考えられます。

 確かにどちらも行動の遅さに注目された警告であるけれど、
前者はスロープレイに対して、後者はストリーングのような動き
(ジャッジがストリーングであると確信すれば、その地点でゲームが中断されるはずです。)
に対しての警告であるはずなので、
同じ種類の連続した警告を意味する、
twice(二度)の警告というのは適切ではないように思います。
勿論、特に一度目の警告の詳しい状態
(そもそも斉藤友晴氏は繰り返し警告を受けたという文言を用いていません)
なので、これが杞憂や明後日の懸念である可能性は高くあります。

 このジャッジの裁定の判断基準には現状で疑問の余地がありますが、
"展開によっては勝利できるかもしれない"ことを考えることによって、
同時に自分の優位性を獲得せざるをえない"時間の浪費"を厭わないという考えによる時間浪費に対して、
DQ(ストリーング=故意の遅延への規定されている裁定の程度)という
裁定が下ることそのものはおそらく前例は多くないものと思いながらも、
ルーリングに則ることを善とする競技体系である以上、
ジャッジの今回の判断は正しいと考えます。

 その厳格なまでに"ルーリングに則ることを善とする動き"が今回、斉藤友晴氏に求められたのは、
おそらく全くの偶発的なものではなかった、という推測をしています。
斉藤友晴氏は、"時間の浪費"を厭わないという考えによる時間浪費を
ある種当然のように考えているという思考が、今回の記事で読み取れました。
それに非合法性を覚えていなかったという旨も含めて、
おそらく今回のジャッジは
「"時間の浪費"を厭わないという考えによる時間浪費という
消極的な遅延もまた、積極的な遅延同様、本来は非合法である」
ということを広く伝えたいがために、
行為の常習性と話題性のある斉藤友晴氏を選んだのだろうと考えます。

 「誰に対しても同じ裁定を下していた」というジャッジ側の意見が出ていますが、
それは誰がしても同じ裁定を出すべき行為をしていたということであり、
今回の行為だけに関してみれば"からい"と判断せざるを得ません。

 この"辛い"とは、普段は(競技レベルに関わらず)それが見逃されてきた、
強く問題視されていなかったという事実からの採点です。
今回の件が、これからこうした消極的な遅延に対してもルーリングの裁定を厳しく採ってゆく、
というジャッジ側のアピールだというのでしたら、
偶発的に最初に選ばれたのが斉藤友晴氏というなら
不運という言い方をするのが相応しく、甘い辛いという採点ではなくなります。

 ただ、そうではない可能性もあります。
 ジャッジが日本人であり過去にDQ裁定を複数回受けている
斉藤友晴氏を最初から差別的な視点で観ていた可能性、
これからも消極的な遅延はその判断の難しさから実質見逃されてゆく可能性、
遅い行動(スロープレイ)と時間稼ぎ(ストリーング)の混同が解決されない可能性等などです。
 今回の裁定は、斉藤友晴氏のプレイングだけをピックアップするものではありませんでした。
プレイヤー側とルール(マジック)側の、
そうした現在未来の問題点や問題となる可能性をそれぞれ数多く露呈させた裁定です。

 "プレイヤー各人の配慮"という単語は
日本勢は、なぜ勝てなかったのか。への感想でも用いました。
"斉藤友晴氏側のルール違反"と断ずるのは容易ですが、
消極的な時間浪費はこれまで許容されてきた事実があります。
そのグレーゾーンを生み出したのは現在のルールであり、
そのグレーゾーンを戦法とみなして来たのはプレイヤーたちです。
(勿論それには斉藤友晴氏も含みます。)
 そのプレイヤーたちが、失格裁定を受けたからと
斉藤友晴氏個人を非難するのは視野の狭窄と受け取ってしまいます。
今回一番の問題は"これからのルーリング"であり、
"これからのマジック"であるべきです。
それを差し置いて斉藤友晴氏個人を叩いてしまうのは
ネガティブでありダーティです。
 
 ただ、斉藤友晴氏の「直接的な反省はしていない」という弁も
第三者意識のある読者に文章の意図を伝えるには不十分な文言で、
反感を買いやすいものだったと思います。
 間接的な反省はある。ともしているように、
多くの読者が斉藤友晴氏に求めている"意識の改革"は
彼のなかで始まっているものと、読み取れます。

 ただ、これは少し斉藤友晴氏寄りの意見で、
公平に見ればおそらく、斉藤友晴氏もまた今回の問題を
少し軽視している節がある。という辺りだと思います。

 少なくともその意識の改革―・・・斉藤友晴氏をはじめとした、
これまでグレーゾーンを活用していた人たちの結果が出ていない現状で、
それを理由にしては絶対に彼らを叩くべきではありません。
 将来性を否定する言動は常に浅慮であり、
その不毛さは観ていて辛いものがあります。

 繰り返しますが、今現在も
僕は斉藤友晴氏のことがとても好きで、尊敬もしています。
"ハッピー"という彼のコピーのとおり、
より多くのプレイヤーが明るく楽しくマジックを遊べる環境を、
彼の主導で実現していってくれることを願っています。
―・・・だからといって、無条件・盲目的に彼の今回の行為と考え方に賛同は出来ず、
それでも叩かれている現状も悲しく、今回この記事を書きました。

 時間稼ぎの意識の有無、消極的な時間稼ぎの合法性、
ジャッジメントの公平性、斉藤友晴氏個人の意識という、
本来それぞれの記事にすべき議題をいっぺんに、
また、出来るだけ自分の考えを正しく書こうとしたので、
前置きと合わせて八千字超という、ダイアリーとはとても言えない、
長い文章になりました。お付き合い頂きありがとうございます。

 反論や質問、注意、分かりにくい点などございましたら、
お気軽にコメントに残してください。 

コメント

nophoto
A
2013年1月31日18:31

Moなら持ち時間制だし完璧だと思った。
現実は難しいですね

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